ROSY
JACQUELINE DU PRE
この春一番最初に咲いたのは去年の秋に購入した「ジャクリーヌ・デュ・プレ」でした。
蕾は薄いアプリコット、開きかけは薄いピンク、開くと白の半八重の大輪で、雌しべの色がとても魅力的、樹形は横張り、葉はきれいな色でとても丈夫そうです。
 「ジャクリーヌ・デュ・プレ」今は亡き英国の女流チェリストの名前です。
音楽一家に生まれ、5歳でチェロをはじめ、8歳で人々の注目を集め、16歳でコンサートデビュー。美人でチャーミングな彼女の天才的な演奏は人々の心をつかみ、『ストラディバリウス』『ダヴィドフ・ストラディバリウス』などの名器をパトロンから贈られ、世界中を演奏旅行、22歳でピアニスト兼指揮者のバレンボイムと結婚、輝かしいスターの人生を歩むかに見えましたが、多発性硬化症(MS)という中枢神経を冒す難病に冒されます。
 そのためにチェロの弓が持てなくなり28歳で舞台のスッポトライトから消えるまでのたったの12年間しか演奏をしていません。その間録音された演奏も多くはありませんが、情熱的で女性とは思えぬダイナミックな音量、20代とは思えぬ卓越したテクニックと成熟度は、彼女ののちの運命を思えば、当然のことで、悲壮感さえ漂う演奏です。(エルガーのチェロ協奏曲はことに有名ですが、私はハイドンのチェロ協奏曲も好きです)
 数年前,ジャクリーヌの姉ヒラリーと弟ピアスが「A Genius in the Family」(日本名:風のジャクリーヌ・ある真実の物語)という本を出版しました。すぐに映画化され、日本でも「真実のジャクリーヌ・デュ・プレ」というタイトルで去年公開されました。天才を支えた家族愛と苦悩、ジャクリーヌの心の明暗と病。著名チェリストを出していない英国では、彼女は国民の英雄であり、神聖化されていたので、その暴露本とも言える内容は抗議さえ生んだほどだそうです。
 この薔薇の名前と雌しべの色が気になっていた私は、その本のエピローグで次の一説を読んだとき、この薔薇を育てなくてはという決心をし、彼女が生きていたらどんな演奏をしていただろうという想像をやめにしました。
 
『・・・墓の隅には薔薇が茂っていた。薔薇交配家のピター・ハークネスの育てた品種の中からジャッキー自身が選び、彼女の名前を付けた薔薇だ。そのころすでにジャッキーの視力はかなり衰えていたので、匂いで選んだのだそうだ。薄いクリームピンクのその花は、ジャッキーの華麗なまでに自由で野性的な精神の生きた象徴のようだった。』

 英国の育種家が英国の誇るチェリストの名前をつけたのではなく、彼女がこの薔薇を選んでいたのです。四肢がマヒし、介護なしでは生活できず、光も奪われ、残された五感で選んだのです。彼女がいつハークネス氏に会ったのかはわかりませんが、彼女が1987年に42歳の短い生涯をとじたあと、1989年にこの薔薇は世に出できます
 この花びらも、雌しべも見ることはなかったジャクリーヌ・デュ・プレがかいだ香りを確かめると、スパイシーで、フルーティで、かつ薔薇の甘い香りもするという、とても個性的で情熱的、純真無垢で繊細で、自分を隠さず周りの人にすべて見せて逝ってしまった彼女そのものでした。一度嗅いだら忘れない印象的な香りを彼女も気に入ったのでしょう。
 夕方になると、「見ないで、そっとしておいて」と言っているかのように花びらを閉じて雌しべを隠してしまいます。

愛知県 2002-2-12[火] 10:49
IP1A0002.aic.mesh.ad.jp - Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 5.5; Windows 98; Win 9x 4.90)

takasi
Re: ジャクリーヌ・デュ・プレ
薔薇の名前にはいろんなドラマがあるんですね。だからこそ、なおさら、いとしく思えるんですよね。MSという難病を知ってるものには、なおさら、彼女のかなしさ、無念さが伝わってきます。

長崎県 2002-2-12[火] 19:09
IP1A0089.ngs.mesh.ad.jp - Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows 98; Win 9x 4.90; BIGLOBE; Q312461)

ROSY
Re: ジャクリーヌ・デュ・プレ
 皆さんこんばんは。ROSYです。
 
 takashiさん、私のつたない投稿文に暖かいレスをありがとうございました。

 この文は昨年の春、ベランダで初めて咲いた「ジャクリーヌ・デュ・プレ」を見たときに書きました。
 梶みゆきさんの本に載っていた写真を見たときから、気になっていた薔薇でした。
 「花フェスタ公園」にも二箇所に植わっています。3年前に香りをチェックして、欲しい薔薇のリストにはいつもあったのですが、すぐに買わなかったのは、「花フェスタ」では周りのイングリッシュローズなどに比べると、生育が悪いのか見劣りしてしまっているのです。
 その後何度も香りを確認して、この本の一説を読んだ時に、心の琴線がぷるぷる、目はうるうるになり、手に入れました。
 育ててみると、決して生育が悪いわけではなく、他の薔薇より早く咲くので、イングリッシュローズが満開の頃は一段落していたのです。それと横張りなので、目立たないのかもしれません。
 我が家はベランダなので、雨に当たることも無く、1週間は咲いていました。香りは本当にすばらしいです。個性的で、何に似ているとは思いつきません。
 「花フェスタ」の薔薇祭りの時に苗を売っている高台の東側の階段を下りた所と、原種の谷の南側の、休憩小屋の近くの二箇所に植わっています。行かれる方は香りをどうぞお楽しみください。

inserted by FC2 system